木のテーブルに広げた白い紙の上で、子どもの手が鉛筆を構えたまま止まっている手元のクローズアップ 🏠 家庭でのかかわり
家庭でのかかわり 公開: 2026年9月20日

発達障害の子がひらがなを書けない・覚えられないとき|背景の切り分けと家庭の工夫

この記事の目次
  1. ひらがなは小学1年で学ぶ|入学前に全部書けていなくて大丈夫
  2. 「ひらがなが書けない」の中身は、ひとつではありません
  3. 家でできることは、鉛筆を置いたところから始まります
  4. 就学前なら、どこに相談する?
  5. もう入学している場合は、どこに相談する?
  6. まとめ

なぞり書きのドリルを開いた瞬間に、鉛筆を放り出して逃げていく。何度書いても「ぬ」と「め」が入れ替わる。名前の一文字目までは書けるのに、二文字目で手がぴたりと止まる——。入学まであと半年、まわりの子はもう手紙を書いていると聞いて、夜になるとその話ばかり考えてしまう。そんな9月を過ごしている方に向けて書きます。

先に結論をお伝えします。ひらがなの読み書きは、小学校に入ってから国語の時間に学ぶ内容です。 文部科学省の小学校学習指導要領は、平仮名と片仮名を読み、書くことを第1学年と第2学年の内容として示しています。入学の日までに全部書けている必要はありません。

そのうえで、「書けない」の中身が分かると、家での関わり方は変えられます。この記事では、書けない理由を4つに分ける見方、鉛筆を置いたままできる家庭の工夫、そして就学前と入学後それぞれの相談先を順に整理します。

ひらがなは小学1年で学ぶ|入学前に全部書けていなくて大丈夫

まず、いちばん気持ちが軽くなる事実から。ひらがなを書けるようにするのは、園の役割ではなく小学校の役割です。

小学校学習指導要領の国語では、第1学年と第2学年で身につける知識・技能として、平仮名と片仮名を読み、書くことが挙げられています。文字の書き方を一から教える時間は、入学後の教室にきちんと用意されています。

では、園には何が求められているのか。幼稚園教育要領で文字について書かれているのは、「日常生活の中で簡単な標識や文字などに関心をもつ」「日常生活の中で、文字などで伝える楽しさを味わう」という言い方です。さらに、数量や文字については幼児自身の必要感に基づく体験を大切にし、興味や関心、感覚が養われるようにする、とも書かれています。求められているのは書けることではなく、文字っておもしろいなと思えることのほうです。

年長の秋に焦りが出るのは自然なことです。ただ、いま起きているのは遅れではなく、教える時間がまだ来ていないだけ、という場合もよくあります。

「ひらがなが書けない」の中身は、ひとつではありません

ここからが、この記事でいちばん伝えたいところです。「書けない」と一言で言っても、どこで止まっているかによって、家でできることは変わります。

国立特別支援教育総合研究所の発達障害教育推進センターも、学習面のつまずきを「読む」「書く」「計算する」といった場面ごとに分けて、指導と支援の方法を紹介しています。

次の表は、保護者が自分で当てはめて判断するための表ではありません。園の先生や相談機関に「うちの子はここで止まっています」と伝えるときに、言葉をそろえるための整理です。

止まっている場所家で見える様子先に試すこと
手先の操作鉛筆を握りこむ/筆圧が強すぎる・弱すぎる/すぐ疲れる/線が枠からはみ出す鉛筆より太い道具に替える。書く面を大きくする
見え方・形のとらえ方「ぬ」と「め」など似た字が入れ替わる/どこから書き始めるか分からない/鏡文字になる1文字を大きく書く。書き出しの点に色をつける
音と文字の結びつき「か」の音を聞いても形が出てこない/しりとりが続かない/読むほうも進まない声に出しながら書く。名前や好きな言葉から入る
興味と経験文字に関心を示さない/書く場面が生活の中にない/やらされると怒る書く目的をつくる。手紙、買い物メモ、持ち物の名前つけ

⚠️ 当てはめて結論を出すための表ではありません

どれか1つに決めるための表ではありません。2つ3つが重なっていることもふつうにあります。気になるところがあれば家庭で判断せず、園の先生や市区町村の相談窓口で一緒に見てもらってください。

読み書きの困難がとくに目立つ状態には、限局性学習症(SLD)や学習障害(LD)という診断名があります。文部科学省は学習障害を、次のように説明しています。全般的な知的発達に遅れはないけれど、聞く・話す・読む・書く・計算する・推論する力のうち、特定のものの習得と使用に著しい困難が出る状態のことです。同じ資料には、視覚障害や知的障害、環境的な要因が直接の原因になるものではない、とも書かれています。関わり方が足りなかったから、という話ではありません。 診断にあたるかどうかを決めるのは医療機関や専門機関なので、家庭で名前をつける必要はありません。

家でできることは、鉛筆を置いたところから始まります

いちどに1つで十分です。ドリルを最初のページから順に進める必要もありません。

書く道具と面を変える。 鉛筆と細い枠は、手先への負担がいちばん大きい組み合わせです。指で机の上をなぞる、砂や小麦粉を広げた上に指で書く、粘土をひものように伸ばして形をつくる、大きな紙にクレヨンで書く、ホワイトボードにマーカーで書く。どれも消すのが簡単で、失敗が紙に残りません。

大きな白い紙の上で、子どもの手が緑のクレヨンを握っている。鉛筆と細い枠より、太い道具と広い面のほうが始めやすい

なぞり書きの前段階に戻る。 いきなり文字に入らず、まっすぐな線、ぐるぐる、まる、かくかくした形をなぞるところから始めます。線を思った方向へ運べると、文字の形にも手が届きやすくなります。

1日1文字、名前の1文字目から。 覚える順番は「あいうえお」でなくて構いません。自分の名前、家族の名前、好きなキャラクターの1文字目。意味のある文字のほうが、音と形が結びつきやすくなります。

書く用事を生活の中に置く。 買い物メモの1行、家族への一言、持ち物への名前書き。文字が何かの役に立つと分かると、練習が「やらされるもの」から外れていきます。

嫌がったらやめる。 これがいちばん大事です。泣きながら書いた10分より、機嫌よく書いた1分のほうが残ります。

💡 進まない日があっても、積み上げは消えません

今日やらなかった分を取り戻す必要はありません。ここに並べた工夫は上から順にこなすリストではなく、合うものを1つ選ぶための候補です。試してだめだったなら、それは子どもに合わなかっただけです。

就学前なら、どこに相談する?

相談先は「文字」ではなく「困っていること」で選びます。無料で使える窓口から順に挙げます。

  • 園の先生|いちばん近くで集団の中の様子を見ています。家で止まっている場面を伝えると、園での様子と突き合わせてもらえます
  • 市区町村の保健センター・発達相談|診断がなくても相談できます。費用はかかりません
  • 就学相談・教育委員会|入学後の学びの場や配慮を一緒に考える窓口です。受付の時期は自治体ごとに違い、年長の春から秋にかけて始まるところが多くなっています。流れは就学相談はいつから始まる?にまとめました
  • 児童発達支援|通所受給者証があれば使えます。手帳や診断が必ず要るわけではなく、判断の手順は市区町村ごとに違います
  • かかりつけの小児科|見え方や聞こえ方が気になるときは、眼科や耳鼻科での確認をすすめられることがあります

手先の使い方や姿勢の専門は作業療法士(OT)、音と文字の結びつきや言葉の育ちの専門は言語聴覚士(ST)です。それぞれの役割は療育のOT・ST・PTの違いで説明しています。入学前にそろえておくと役に立つ準備は支援が必要な子の入学準備にまとめました。

もう入学している場合は、どこに相談する?

すでに1年生や2年生で、書けないまま授業が進んでいる。そういう状況でこの記事にたどり着いた方もいると思います。入学してからのほうが、使える入口はむしろ増えます。

1
担任に場面で伝える「書けません」ではなく「連絡帳を写す時間が足りず、毎日書き終わりません」と、止まる場面をそのまま伝えます。
2
特別支援教育コーディネーターにつなぐ各学校に指名されている担当者です。担任を通して相談を上げてもらえます。
3
校内委員会から通級の検討へ学校から教育委員会へ、通級による指導が必要かどうかの検討が進みます。

通級による指導は、通常の学級に在籍したまま、週に何時間かだけ別の場所で指導を受ける仕組みです。文部科学省の手引では、学習障害のある子への指導時間は年間10単位時間から280単位時間までが標準とされています。月に1単位時間程度でも効果が期待できる場合があるため、下限がここまで低く設定されている、という説明です。仕組みの全体像は通級指導教室とは?にまとめました。

授業の中の配慮は、学期の途中からでも頼めます。マスの大きいノートを使う、板書を写す量を減らす、写真で記録してよいことにする、タブレットやキーボードでの入力を認める。こうした支援機器の活用も、書く負担を下げる手立てのひとつです。文部科学省の教育支援の手引は、一人一人の教育的ニーズに応じて考える立て付けになっています。申し出るときは場面と希望をセットにすると、話が早く進みます。

まとめ

  • ひらがなの読み書きは小学1・2年の国語で学ぶ内容です。入学までに全部書けている必要はありません。幼稚園教育要領が求めているのも、書けることではなく文字への関心です
  • 「書けない」の中身は、手先の操作・見え方・音と文字の結びつき・興味と経験に分かれます。どこで止まるかで、家でできることが変わります
  • 家庭では、鉛筆より太い道具と広い面から。1日1文字、名前の1文字目から。嫌がる日はやめて構いません
  • 就学前は園・保健センター・就学相談・児童発達支援、入学後は担任から特別支援教育コーディネーター、そして通級の検討という順で相談できます
  • 読み書きの困難に診断名がつくこともありますが、決めるのは医療機関や専門機関です。家庭で名前をつける必要はありません

今夜はここまでで大丈夫です。明日やることは1つだけ、紙をいつもより大きいものに替えて、名前の1文字目を一緒に書いてみてください。嫌がったら、そこで閉じて構いません。

よくある質問

ひらがなを覚える順番は「あいうえお」からのほうがいいですか?

順番にこだわらなくて大丈夫です。自分の名前や好きなものの1文字目のように、本人にとって意味のある文字のほうが、音と形が結びつきやすくなります。五十音表は全部そろえてから使う道具ではなく、書けた文字に印をつけていく記録として使うほうが続けやすくなります。

鏡文字(左右が反対の字)を書きます。やめさせたほうがいいですか?

書き直しをさせるより、書き始めの位置を分かりやすくするほうが先です。マスの左上に色のシールを貼る、始点に点を打っておく、といった工夫で向きが整うことがあります。就学前後の時期に鏡文字が出ること自体はよくあります。気になる状態が長く続くときは、園の先生や相談窓口に様子を伝えてください。

市販のドリルは続けたほうがいいですか?

本人が嫌がっていないなら続けて構いませんが、ドリルだけが方法ではありません。枠が小さい、1ページの量が多い、といった理由で嫌がっている場合は、紙を大きくする・1日1文字に減らすだけで様子が変わることがあります。教材を増やすより、いまのやり方の負担を下げるほうが先です。

入学前に、学校へ伝えておいたほうがいいですか?

伝えておくと、入学後の配慮が早く始まります。就学時健康診断や就学相談の場、入学説明会のあとの個別相談などが機会になります。「まだ書けません」だけでなく、「大きいマスなら書けます」「書き始めの位置が分かると書けます」のように、できる条件も一緒に伝えると使ってもらいやすくなります。

参考・出典

本記事は公的機関等の公開情報をもとに作成した一般的な情報提供であり、医学的な診断・助言に代わるものではありません。 制度の内容はお住まいの自治体や時期によって異なる場合があります。最新の情報は各公式窓口でご確認ください。