🏠 家庭でのかかわり 発達障害の子が「嘘をつく」ように見えるとき|5つの背景と問いつめない聞き方
この記事の目次
宿題はやったと言うのに、ランドセルから手つかずのプリントが出てくる。目の前で倒したコップを「ぼくじゃない」と言い張る。行っていない場所の話を、やけに細かく話して聞かせてくる——。問いつめて、泣かせて、寝顔を見ながら「嘘をつく子にしてしまった」と怖くなる。そんな夜にこのページを開いたのだと思います。先にお伝えすると、「嘘をつく」ように見える行動には、少なくとも5つの別々の中身があります。どれに当てはまるかで、やるべきことは入れ替わります。この記事では、まず5つの切り分け方を示します。そのあと、詰問にならない聞き方、事実確認と叱ることを分ける手順、正直に言えたときの受け止め方、相談の目安を順に見ていきます。
「嘘をつく」ように見える行動は、中身が5つに分かれる
同じ「嘘」という一語でくくると、打ち手が1つしか思いつかなくなります。逆に中身を分けると、叱る以外の手が見えてきます。
次の表は、保護者が自分で当てはめて判断するための表ではありません。園や学校の先生、相談機関に「うちではこういう場面で困っています」と伝えるときに、言葉をそろえるための整理です。
| 見えている行動 | 背景として考えられること | 最初の一手 |
|---|---|---|
| やったのに「やってない」、やっていないのに「やった」と言う | 順番に思い出して話すのが負担。本人はやったつもりでいる | 時間順ではなく、場面ごとに分けて聞く |
| 聞かれた瞬間に否定する | 叱られる予感が先に立ち、考える前に口が動く | 声を下げ、今は怒らないと先に伝える |
| 話に空想や願望が混ざる | 思ったことと見たことの境目が、育つ途中にある | 嘘と呼ばず、あったことだけを一緒に並べ直す |
| 質問と答えがかみ合わない | 「なんで」のような抽象度の高い問いが受け取りにくい | 見たままを答えられる形に質問を変える |
| やっていないことを「できる」「持っている」と話す | 友達の輪に入りたい気持ちや劣等感が背中を押している | 話の中身ではなく、友達関係のほうを見に行く |
⚠️ 当てはまる数を数えないでください
上の表は、先生や相談機関に伝える材料をそろえるための整理です。いくつ当てはまるかで結論は出ませんし、これで発達障害かどうかが分かるものでもありません。判断は、育ちの経過といくつもの場面の情報を持ち寄って専門機関が行います。保護者の役割は、見たことをそのまま伝えるところまでです。
以下、自分の子に近いものから読んでください。
「やった・やってない」が食い違うとき
いちばん多いのが、本人にごまかす気がないのに、話が事実と合わなくなる場合です。
出来事を人に伝えるには、思い出す、順番に並べる、言葉にする、という作業が同時に要ります。ここに負担があると、細かいところが抜けたり、順番が入れ替わったりします。文部科学省の生徒指導提要は、注意欠陥多動性障害のある子について、早合点やうっかりミス、不注意な誤りによる失敗も多く経験している、と説明しています。
- 時間で聞かない: 「何時にやったの」ではなく「どこでやったの」と、場所で区切る
- 区間を短くする: 「今日一日」ではなく「給食のあと、何をした?」と細かく聞く
- もの起点で聞く: 「プリントは最後にどこにあった?」と、ものの居場所からたどる
- 紙に並べる: 出てきた順に一行ずつ書き出し、本人にも見えるようにする
紙に書き出すやり方は特に効きます。頭の中だけで並べ直す負担が減り、本人が「あ、違う」と自分で直せます。その言い直しは嘘の訂正ではなく、思い出せたことです。
叱られる予感で、とっさに「やってない」と出てしまうとき
聞き終わる前に否定が飛んでくる。これは、内容を判断した結果ではなく、身を守る反射に近いものです。
生徒指導提要は、注意や叱責を受ける機会が多いことは自己評価や自己肯定感を下げる要因になる、と指摘しています。一日に何度も止められ続けている子は、大人の声色が変わった時点で身構えます。先に動くのは記憶ではなく、危険を避けようとする反応のほうです。
この反射は、あなたの叱り方が原因だと決めつけられるものではありません。学校、学童、習い事、通りすがりの大人。注意はいろいろな場所から積もります。生徒指導提要も、発達障害による能力的な偏りが気づかれないまま、経験や努力不足、意欲の問題、甘えやわがままと誤って受け取られてしまうことが少なくない、と書いています。
反射を弱めるには、聞く前の数秒を変えます。
- その場で立ったまま聞かず、いったん座る
- 正面ではなく、隣か斜めに位置を取る
- 最初の一言を「今は怒らないよ。何があったか知りたいだけ」にする
- 答えが返ってくるまで、追加の質問を重ねない
つまずきや失敗が繰り返されて苦手意識や挫折感が高まると、暴力行為や不登校、不安障害といった二次的な問題による症状が出てしまうことがある、というのも同じ資料の指摘です。嘘に見える行動が増えた時期は、その手前のサインとして見ておいてください。詳しくは発達障害の二次障害とはにまとめています。
💡 これまで叱った回数を数えなくて大丈夫です
反射的な否定は、家庭だけで作られるものではありません。こども家庭庁も、体罰をしてしまう背景として、何度言っても動いてくれない、相談できる人がいないといった保護者側の状況を並べています。責める材料ではなく、支える側を増やすための整理です。今夜さかのぼる必要はありません。
空想が混ざるとき、質問の意図が取れないとき
3つめと4つめは、どちらも「本人は嘘をついているつもりがない」点で共通しています。
小さい子の話には、見たこと、聞いたこと、こうだったらいいなと思ったことが混ざります。思ったことと見たことを分けて話す力は育つ途中にあり、年齢で線を引けるものではありません。この時期の作り話を嘘と名づけて叱ると、話すこと自体が減ります。「それはあったことかな、思ったことかな」と、ゆっくり分けるだけで足ります。
質問の意図が取れない場合も、見た目は嘘に近くなります。生徒指導提要は、自閉症のある子について、暗黙の了解や例え話、遠回しの表現など抽象度が高い内容の理解に難しさを抱える、と説明しています。「なんでやったの」は、理由を推測して言葉にする二段構えの問いです。黙る、関係のないことを言う、とりあえず「うん」と言う。どれも、答えられないことのあらわれ方の違いです。
「やったの?」は「うん」で終われますが、「最初に何をした?」には中身を答えるしかありません。はい・いいえで答えられる質問を減らすのが早道です。
見栄や「仲間に入りたい」気持ちからの作り話
やっていないことをやったと話す、持っていないものを持っていると言う。この形は、友達関係の困りごとと地続きです。
話の輪に入りたいけれど共通の話題がない。前に本当のことを言ったら笑われた。できないことを指摘され続けて、一度くらい大きく見せたかった。生徒指導提要も、対人関係では相手の状況を考えずにした発言がトラブルのきっかけになる、と書いています。
ここで話の中身を訂正しても、輪に入れない状況は変わりません。見るのは真偽ではなく、その子が今どこで誰といるか、のほうです。休み時間を一人で過ごしていないか、班替えのあとに変化がなかったか、担任に聞いてみてください。友達との距離が開いてきたときの見方は友達が離れていくと感じたときで扱っています。
「なんで?」を「どうなってた?」に変える聞き方
ここからは、5つのどれにでも使える形です。事実を確かめる時間と、してほしかったことを伝える時間を、はっきり分けます。

とっさに出る言葉を、先に用意しておくと楽になります。
| つい出てしまう聞き方 | 言い換え |
|---|---|
| なんでやったの? | そのとき、どうなってた? |
| 本当のことを言いなさい | 思い出せるところから話してね |
| 嘘をつくのはやめて | 違うところがあったら、あとから直していいよ |
| やったの? やってないの? | 最初に何をしたか教えて |
| 何回言ったら分かるの | 一緒に、順番に並べてみよう |
正直に言えたときの扱いが、次の一回を決めます。中身に驚いても、先に触れるのは言えたことのほうです。「話してくれてありがとう。それで、どうしようか」と続けると、話す側の損が小さくなります。こども家庭庁も、自分の気持ちや考えを受け止めてもらえた体験によって、子どもは気持ちが落ち着いたり、大切にされていると感じたりする、と説明しています。叱る場面そのものの減らし方は発達障害の子への叱り方にまとめています。
嘘をつかなくて済む状況をつくる
聞き方を変えても、毎日「やった?」と確認する状況が続けば、否定と追及の往復は終わりません。生徒指導提要は、行動面については注意や叱責だけでは改善は難しいという前提に立ち、適切な行動を増やしていく視点を持つことが大切だと書いています。家庭でできるのは、「できない課題」と「見通しの立たなさ」を減らすことです。
- 宿題の量を相談する: 終わらない量が毎日出ていれば、やったと言うしかなくなります。担任に分量や形式を相談できます
- 記憶に頼らせない: 持ち物や提出物は、玄関の一覧やチェック表など目で見える形に置き換えます
- 予定を紙で出す: 次に何が起きるかが見えていると、ごまかす場面自体が減ります
- 確認の回数を減らす: 一日に何度も聞かず、決まった時間に一度だけにします
- 早く言うと得になる形にする: 早めに言えたら一緒に直せる、とあらかじめ決めておきます
こども家庭庁も、叱らないでよい環境づくりを勧めています。触られたくないものは見えないところにしまう、片付けなら何をどこに置けばよいかが分かるようにする、という具体例です。嘘が出る場面を、先に減らしておくということです。
相談したほうがいい目安と、相談先
関わり方の工夫だけで抱えなくていい場面があります。次のどれかが当てはまるなら、外の人を一人入れてください。
- お金やもの、人の持ち物が絡んでいる
- 同じことが繰り返され、本人もつらそうにしている
- 学校で一人になりつつある、友達との間でもめごとが増えた
- 眠れない、食べられない、学校をしぶるなど、生活に変化が出ている
- 家の中で、聞く側も答える側も、毎日消耗している
生徒指導提要は、背景の理解が十分でないままに罰したり、保護者に指導の強化を促したりするだけでは解決には至らない、と書いています。相談は、家庭を採点してもらう場ではなく、背景を一緒に見てもらう場です。
| 相談先 | こんなときに |
|---|---|
| 担任・特別支援教育コーディネーター | 学校での場面を知りたい。宿題や持ち物の調整を相談したい |
| スクールカウンセラー | 友達関係や気持ちの面が絡んでいる。保護者だけでも相談できる |
| 自治体の子育て・障害福祉の窓口、保健センター | 何から相談すればいいか分からない。診断の有無に関わらず使える |
| 発達障害者支援センター | 発達障害に特化して相談したい。都道府県や政令市に置かれている |
| 主治医、かかりつけの小児科 | 眠れない、食べられないなど体の変化がある |
発達障害についての情報は、福祉・教育・医療・労働にまたがって、国立障害者リハビリテーションセンターの発達障害情報・支援センターが整理しています。発達障害ナビポータルは、子育てに難しさを感じる保護者が参加できるものとしてペアレント・プログラムやペアレント・トレーニングも紹介しています。迷うときは発達障害の相談窓口はどこ?から確認してください。
まとめ
- 「嘘」に見える行動は、思い出して並べるのが苦手、叱られる予感での否認、空想が混ざる、質問の意図が取れない、見栄や仲間に入りたい気持ち、の5つに分かれます
- どれかを決めるのは保護者の役目ではありません。見たことをそのまま先生や相談機関に伝えるところまでで足ります
- その場で問いつめず、隣に座り、「今は怒らない」と先に言い、「なんで」ではなく「どうなってた?」と聞きます
- 事実を確かめる時間と、伝える時間を分けます。同じ場で叱ると、次から事実が出てきません
- 正直に言えたときは、中身より先に言えたことに触れます。お金やものが絡む、本人もつらそう、学校で孤立し始めた、というときは担任やスクールカウンセラー、自治体の窓口に相談してください
今夜はここまでで大丈夫です。明日、1つだけ試すとしたら、「なんで?」と言いそうになったところを「どうなってた?」に置き換えてみてください。答えの中身は変わらなくても、返ってくる言葉の量がまず変わります。
よくある質問
嘘をついたとき、叱ってはいけないのですか?
叱らないことが目標ではありません。変えたいのは順番です。何があったかを確かめる時間と、してほしかったことを伝える時間を分けると、事実が出てきやすくなります。確認の最中に声が大きくなると、そこから先は本当のことが出てこなくなり、結局どちらもできずに終わります。
正直に言ったのに、内容に驚いて叱ってしまいました。もう言わなくなりますか?
一度の出来事で決まってしまうものではありません。次に落ち着いているときに「さっきは大きい声を出してごめんね。話してくれたことはよかった」と短く伝えれば足ります。言いにくいことを言った直後に何が返ってきたかを、子どもはよく覚えています。伝え直す機会は何度でもあります。
学校で嘘をついていると担任から連絡がありました。家ではどう聞けばいいですか?
家で問い直すより先に、担任にその場面の前後を具体的に聞いてください。何の直後だったか、誰がいたか、どんな聞かれ方をしたかで、見立てが変わります。家では「先生から聞いたよ」と切り出さず、その日の出来事を普通に聞くところから始めるほうが、こじれにくくなります。
きょうだいのせいにします。どう扱えばいいですか?
その場で犯人を決めようとすると、両方が否定し合って終わりがちです。まず、起きたこと(割れた、なくなった)と、これからどうするか(片づける、探す)だけを先に片づけてください。誰がやったかは、落ち着いた時間に一人ずつ、責めない口調で聞くほうが出てきます。